法律実務の覚書

法律実務の覚書

スポンサーリンク

訴状却下は訴訟係属していない

訴状を裁判所に出すと、第一段階終了ではあるものの、訴訟係属しているかというとそういうわけでもない。

訴状が訴状たりえる要件を備えていないと、補正命令を受けた後、補正ができないと訴状が却下される。この却下は判決ではなく、命令である。

訴訟が継続されたと言える為には、相手方に然るべき訴状が送達されてからとなると言われている。相対する当事者が現れないと、相手方ある裁判として、未だ係属していないという考え方である。

何とはなしに、申立のときが時効中断時であったりする為か、訴状を出したら、訴訟が始まった気になるが、相手方に送ってもらえないような訴状や、届かなくて(公示送達もしないままに終わる(取り下げる))終わってしまうこともそれはあるだろう。

当事者がはっきりしているとあまり気にならないが、訴訟係属前のこの第一関門というのは、意外と低くないハードルだったりすることもままあるだろう。

オーナーチェンジと賃貸保証契約

オーナーチェンジされた場合、原則として所有権が移転されたと同時に、賃貸関係も引き継ぎ、随伴して保証債務も新オーナーに対して継続される模様。

自動的に切り替わるので、新オーナーは、賃借人や保証人に一方的に通知して、新債権者ですよとわかるようにしてあげれば足りる。

ところが、単に通知するのではなく、ちゃんとしようということで、賃借人や保証人と契約書を巻きなおそうということになると、元の契約のままというのではなく、「新契約はこう変わったのだ」という意図と解釈される余地があり、そこにもし、保証人を入れないとなると、新契約には保証は継続しないとも取れうる。

実態に即しての判断となるだろうから、必ず、こうなるというものではないが、保証債務があるなしかは、単純に〇×で判断するとよろしくないようである。

改訂 登記名義人の住所氏名変更 更正登記の手引

改訂 登記名義人の住所氏名変更 更正登記の手引

(新日本法規)

評価88点

2009年の本で、少し古いようにも思えるかもしれないが、そんなに動きのある分野でもないので、多くの部分で十分に通用する。不動産登記法改正以後の書籍であるので、そんなに問題ないであろう。

いわゆる「名変」であるが、理屈上は大したことがないはずなのだが、意外と迷うことの少なくない登記である。

この書籍はとにかくパターンを多く載せており、事例は166にものぼる。

よく当たるのは、引っ越しが数回あるパターンであったり、本籍地で住所が登記されてしまっているパターンが多いであろうか。

古くは、本籍地で登記ができたというのは知られているが、それを変更ないし更正するにはどうやったらいいかというのは、意外と言及のある書籍は少ないので、それが載っているのは貴重である。

また、一括申請の可否であるとか、わかってしまえば、大したことがないが、いちいち覚えていられないようなこともすっきりわかりやすく書かれており、一名の単純な住所変更とは違うなというときは、紐解いて確認するのにも使い勝手がよい。

外国人の名変や、自治体が関わるとき、調停調書と記載が違う場面など、ちょっとイレギュラーなもの、抵当権や根抵当権の関係なども言及しており、かなりの場面をカバーしている。

ただ、もう一つよくあるのは、誤字、俗字の場面であるが、これにも載っており、根拠通達もしっかり載せてあるが、ややこしい部分であるので、この部分については、別にもう一冊用意があった方がよいかとも思われる。

  

改訂 登記名義人の住所氏名変更・更正登記の手引

改訂 登記名義人の住所氏名変更・更正登記の手引

 

 

要件事実論30講

要件事実論30講

(弘文堂)

評価 93点

この書籍は、入門的な要件事実論を理解した人を対象として、具体的な例を多数載せながら、要件事実論の基礎・応用力を身につけさせるというものである。

ロースクールの学生や司法書士特別研修を受ける司法書士にも活用されたい旨記載があるが、司法書士の特別研修を受講するにあたっては、いささか詳しすぎると思われる。

660ページもあり、それなりの時間がかかることもあり、特別研修及び認定考査レベルであれば、他の書籍が相応しいかと思われる。

しかしながら、「紛争類型別要件事実」(法曹会)や、要件事実の考え方と実務(民事法研究会)では、ほとんど言及がない「せり上がり」や「a+b」といった場面や、一連の抗弁再抗弁から派生的に生ずる予備的主張といった場面についても言及がなされており、入門から、さらに一歩、基礎力を養うには、大変勉強のしやすい本であると言える。

ただ、当然ではあるが、要件事実の書籍であるので、事実認定については別途別に勉強する必要があるので、これをもって、裁判がわかるかというと、そういうわけにはいかない。

しかしながら、要件事実論の基礎力をつけるには最適な書籍であり、また、債権法改正にも対応しており、新法であればこうなるといった言及(もっとも新法自体の詳しい解説があるわけではないので、新法の勉強には別途の書籍が必要)しており、改正法が施行されても十分に使える書籍となっている。

  

要件事実論30講 <第4版>

要件事実論30講 <第4版>

 

 

渉外 不動産登記の法律と実務

渉外 不動産登記の法律と実務

(日本加除出版)

評価90点

昨今、島国である日本でも、外国人の方が不動産にかかわることは、増えてきている。

この本は、渉外不動産登記についてであるが、売買についての記載があるのは、全体の1割ほどで、ほとんどが相続について、詳しく載っている。

よく関与しうる各国編として、韓国、中国、台湾、ヴェトナム、フィリピン、インドネシア、タイ、シンガポール、インド、ブラジル、イギリスの例の記載がそれぞれの国ごとの法律で相続がどうなるかについて記載されている。

この本では、各国法がどうなっているかはもちろん、日本から手続きをするにあたって、現地の調査の方法や流れなども記載され、また参考になるのが、全ての国でではないが、現地の証明書の見本が載っており、イメージがしやすい。

この見本があるのは、結構重要なことで、法律実務家がイメージしやすいのと同時に、相談者もイメージしていないので、どういうものが必要なのかを共有するのに特に役立つ。

もっとも、上記各国以外の国の相続というのもあるし、実は一番多いのは、被相続人が日本人で、相続人の一部に外国の方がいるということかもしれない。

この書籍では、日本の法務局が、どういった書面を要求するのかということを言及する中で、相続人の一部に外国の方がいるという汎用性の高い部分にも対応できるような構成になっており、使える場面は非常に幅広い。

戸籍制度を持っている国(地域)は、日本、韓国、台湾といった世界の中では、極少数であり、戸籍がないゆえに、宣誓供述書に頼ることはとても多いと思われる。

各国は、住民票制度もないこともあり、宣誓供述書で住所を確認するという方法を取ることも少なくないと思われる。宣誓供述書の見本も相当程度収録されており、渉外相続であれば、まずはこの一冊という書籍であると言える。

  

渉外不動産登記の法律と実務―相続、売買、準拠法に関する実例解説

渉外不動産登記の法律と実務―相続、売買、準拠法に関する実例解説

 

 

個人債務者再生手続実務解説Q&A

 個人債務者再生手続実務解説Q&A

(青林書院)

2007年の本で、正直新しくはない。

しかい、まだまだ使える本である。個人再生は申立件数が破産と比べて、ずいぶん少ないからか、あんまり本が出ていない。

また、東京地裁の本は、2013年に出ているが、大阪地裁については、あまり最近の書籍はないようである。

破産や再生のこの手の単行本は、実質、書式集であったりすることが多く、しかしながら、書式自体は、すでに持っているということが多く、分厚いばかりであまり使えないことがあったりする。

ところが、この本は、書式はないことはないが、そんなには載っていない。

それよりも、ポイントとなる考え方などがQ&A方式で載っており、読者の疑問に答える形になっている。

例えば、個人再生は、債務者自体の収入のみでなく、他の世帯員の収入も含めての計画が可能であるが、会社員の場合や年金受給者の場合など、具体的なパターンを指摘していたり、実際的である。

どういった物件、抵当権であれば住宅ローン特別条項の使えるのかなど具体的に解説されており、事案それぞれで出てくる疑問に答える書籍である。

 

個人債務者再生手続実務解説Q&A

個人債務者再生手続実務解説Q&A

 

 

 

 

相続における戸籍の見方と登記手続

相続における戸籍の見方と登記手続

(日本加除出版)

評価98点

この本は高い。だが、買って後悔するという法律実務家はおそらくいないと思われる。

相続や養子縁組、婚姻によって、戸籍にはどういった記載がされ、または、逆にこういう記載があるという場面では、それがどういう意味を持つのかということが、かなり詳細に解説されている。

特筆すべきは、旧民法時代の戸籍の見方である。

民法から新法施行後への沿革や途上での応急措置法において、実体上どういう扱いがなされ、それがどう戸籍に反映されて然るべきだったかが、極めて多様なパターンで載っている。

「反映されて然るべきだったか」というのがポイントであり、実際の古い戸籍では、記載漏れが頻繁に生じている。

例えば、旧法時代に戸主男性と養子縁組がなされた場合、旧法の夫婦共同縁組が適用されて、妻の養子にもなっている。そうすると、養父母として戸主とその妻が記載されて然るべきだが、これが書かれていない。

こういったことが古い戸籍では頻発する。

どういった身分行為がなされたかは、戸籍の記載を見て、遡って推理していくような作業が必要となるが、その時に、本来であれば、何が書いてあって然るべきだったのかという知識があると、その戸籍の謎は、かなり正解に近づく。

 

戦後以降の戸籍でも、字の間違いなどは、頻繁に見かけるが、本来各書くべきものを書いていないなどということはあまりない。

戦中、戦前の古い戸籍を追うことになると、旧法・応急措置法の知識が必要となるが、その解説とともに、それがどう戸籍に反映されるかについて考えられうるパターンは載せつくしたのではないかというくらい載っており、古い戸籍を解析する業務があったならば、この書籍は必須であると言って間違いないし、またほぼこれで解決すると言っても言い過ぎではない。

 

相続における戸籍の見方と登記手続

相続における戸籍の見方と登記手続