急増する個人請負の労働問題
急増する個人請負の労働問題
(労働調査会)
評価 83点
形式的に請負契約とされていても実体的に雇用であると認められれば、それは雇用である。
この書籍にも載っているが、その判断の根拠は、労働基準法研究会報告(昭和60.12.19)と労働基準法研究会労働契約等法制部会 労働者性検討専門部会報告(平成8.3)の基準である。
これはインターネットでも出てくるし、結局はこれに準じて、具体的に検討することになる。どういった点があれば、労働者性を補強し、どういった点があれば、請負性を補強していくのかといった基準が示されていてる。
この基準そのものも、わりと具体性があり、判断基準となる要素について、具体的に言及があり、この理解に努めることが、検討課題になると思われる。とはいえ、こういった基準だけでは、やはり一般論になりがちである。
この書籍では、冒頭からかなりの分量を割いて、この基準の捉え方の解説がされており、そののち、具体的な裁判事例を多数紹介して、判断のポイントとなった点について言及されている。
研究会の示す基準は、いわば要素であり、これがあったら即労働者、個人請負といった話ではなく、その要素によっての総合判断となるので、基準のいわんとするところの一定の理解が書籍冒頭からの解説で理解できても、具体的事案に当てはめて、結局どうなるのかは見通しが必ずしも立つわけではない。
しかし、この書籍では48の裁判例を引用して、その具体的なポイントと帰結を解説しており、見通しを立てるにも大変役立つし、具体的な職場類型にあたってのポイントが見えてくる。
ただ、どうしてもあまり分厚い書籍ではないので、具体的事案にしっかりピンポイントなものが見つかるかというとそうとはならない可能性もある。
しかし、必要なポイントの検討点に気づくには十分な言及があるので、読む時間もそうかからないことを考えれば、コスパは高い書籍であると言えよう。
急増する個人請負の労働問題―システムエンジニア等は労働者か?
- 作者: 山口毅
- 出版社/メーカー: 労働調査会
- 発売日: 2009/07
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 8回
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改訂版 遺言実務入門
改訂版 遺言実務入門
(三協法規出版)
評価92点
この書籍は、そんなに分厚くなく、本当に入門書である。
といえば、薄っぺらくて、使えないような印象だろうが、まったくそんなことはない。
よくできた書籍である。
入門書らしく、準備すべき必要書類のリストが載ってあったりして、マニュアル的な使い方としても十分機能する。
イレギュラーな場面という意味では、他の書籍に譲る点もあろうかと思うが、およそ、実務で問題となるポイントをかなり網羅しており、意外とそれが、他の書籍では言及がなかったりする。
決して分厚くないのに、他の書籍では紹介されていない裁判例も多数紹介されいるのである。
遺言執行の場面も書式を交えて解説してあり、これもまた決して分厚くないのに、充実している。実務書と一口に言っても、結局、具体的に何をやればいいのかは、読者で考えなければならないものが多い中、こういうことをやるというのが具体的にイメージできるようになっている。
金融機関での手続きのポイントなど、ワンポイントアドバイスとして記載ある点が、極めて実際的で、目に浮かぶような記載ぶりであって、これを通読すれば、やったことがなくても、傍目にはそうとは思えないくらいに、具体的な話ができる人間になってるやもしれない。
もちろん、各論において、イレギュラーなところをカバーするには別の書籍も手に取った方がよいと思われるが、「遺言実務入門」というタイトル通り、入門に最適であるが、通読すれば、入門レベルより、もう一歩先まで勉強できるという書籍であると言える。
登記官からみた「真正な登記名義の回復」・「錯誤」
登記官からみた「真正な登記名義の回復」・「錯誤」
(新日本法規)
評価 95点
旧法時代、錯誤はとても便利な登記原因で、なんでも錯誤で抹消できたかもしれない。
しかし登記原因照明情報制度が導入されてからはそうはいかない。
この書籍では、真正な登記名義の回復と錯誤について、詳しく解説しているが、安易に使うことなく、慎重であることを求めている。
真正な登記名義の回復が主テーマであるが、他の登記原因による道もありうることを書いており、意外とここが実務上のポイントになると思われる。
例えば、委任の終了であるとか、名義があったことを法的に構成して、実体と合わせることを努力すべきで、安易な登記は危険であることが読み取れる。
というのは、登記と実際が乖離している状況が、この分野でのスタート地点であるところ、少なからず、スタート地点がいわば嘘の登記であることがままあるということである。
それが、後の状況の変化によって、何らかの登記をせねばらないことになって、問題が顕在化し、専門家に持ち込まれるているというところで、この書籍が活躍することになる。
そこで、安易な登記をしてしまうと、違法な登記となりえ、常に懲戒が横について回りかねない危険な分野である。
この書籍は、真正な登記名義の回復や錯誤、またはその他の方法で、実体にいかに沿わせるかということを念頭に、登記官の目で解説されている。解説もさることながら、注意喚起をしっかりしてくれているところが、最も有意義な部分であると思われる。
「本当は、違うんだけど」という話が出てきたなら、この書籍を熟読することが必須であり、特に慎重にことを進めなければならず、時に法務局とも議論をして、安易な登記申請にならないように進める必要があるであろう。
登記官からみた「真正な登記名義の回復」・「錯誤」―誤用されやすい登記原因―
- 作者: 青木登
- 出版社/メーカー: 新日本法規出版
- 発売日: 2013/01/16
- メディア: 単行本
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労働基準法の早わかり
労働基準法の早わかり
(労働調査会)
評価 84点
厚生労働省労働基準局監督課による労働基準法の逐条解説である。
少し古い本ではあるが、行政による条文解説であり、判例も引用しており、条文解釈の頼りとするには、なかなか便利な本である。
解説方法もわかりやすく編集してあり、初めて労働基準法の書籍をという場合にも使いやすい本であるし、使いやすいのが法条文だけでなく、関連規則も一緒に載せているところである。
会社関係者が手に取るもよし、法律実務家が手に取るもよし、とても使いやすい書籍である。
また、罰則も併記してあり、本来条文では、まとめて、〇条、〇条の場合は、どんな罰則と、条文番号を見て行ったり来たりしなければならないが、この本では、そのあたり余計な手間が省けるようになっている。
労働基準法を使う場面があるならば、まずは一冊手元に置いておけば、話が早いと言える便利な書籍である。
条解 破産法
条解 破産法
(弘文堂)
評価 85点
この本は、めちゃくちゃ高い。
専門書は数千円が当たり前だが、さすがに2万円を超えてくると高いとしか思えなくなる。
但し、それだけの価値がこの本にあり、とても詳しい。
この本が必要となる場面は、基本的には単純に同時廃止で終わらない可能性のある、一定程度の問題のある事案が想定される。
実際に管財事件になる、ならないは別として、否認の法理や、執行との関係など、いわゆる裁判所が作っている同時廃止の一般書式が想定していない展開のときに、活躍が期待される。特に別除権の問題や、相殺制限など、素直な動きを当事者がしていないときに、この場合は、どうなるのかといった条文的裏付けに当たることができる。
破産財団を構成する財産の位置づけが、相当詳しく乗っているといえる。
通読したり、普段から手元に置くような書籍の類ではないが、イレギュラーな対応が必要な際に、条文の趣旨や解説に当たることで、指針を得ることができる辞書的な書籍であると思われる。
単純な同時廃止案件では、正直なくてもよい本である。
また、あくまで条文趣旨を理解する指針を得るのであって、Q&A的な、具体的事案における結論をぱっと見出すような使い方は難しい。
イレギュラーな事態や、管財案件となると、根拠づけに当たる必要が出てくる。そんなときに理論的には、こう考えられるという裏付けを得ることができる。こういった場面というのは急に発生するものである。机上に一冊は全く要らないが、本棚に常備しておきたい一冊というところであろう。
Q&A 生活保護利用者をめぐる法律相談
Q&A 生活保護利用者をめぐる法律相談
(新日本法規)
評価 95点
生活保護のことであれば、生活保護手帳と別冊問答集は必須であるが、実際の現場では、その二つを参照しても、結局どうなのか迷う場面が少なくない。
また、特に保護手帳は、どこになにが書いてあるのか、現場ですっと探すには、あまり便利ではなかったりする。
そんな場合に、この書籍を紐解けば、大概のことは解決すると言っても言い過ぎではない。
なかなか入手のしにくい東京都福祉保健局の取り扱いなど、通達、裁判例以外を根拠にしたものもあり、幅広く根拠づけがなされている。
これら根拠についても、保護手帳の何ページであるというところまで言及がなされているため、原典に当たることも容易になっており、根拠の索引機能も高い。
借金と生活保護、年金担保と生活保護など、借金関係がまつわることは、生活保護利用者が債務整理の場面でどうなるかについて有用であるし、交通事故、相続(相続放棄含む)、刑事事件など、他の法律問題との関係で、生活保護がどうなっていくのかというテーマも多数あり、生活保護を直接支援するような立場でなくても、他の手続きの影響が生活保護にどう出るのかといった点は、多くの実務家にとって、かなり有益であるといえる。
この「Q&A 生活保利用者をめぐる法律相談」では、相談現場でよく迷う部分が、ポイントとなるところを適示しながら、専門実務書としては、かなり平易に書かれている。
法律関係のことを平易に書くというのは、結構難しいものであるが、この本は、それをうまく乗り越えて、かつ相談現場で実際に使えるレベルを維持しているところも大きな特徴である。
この本を手に取るのが、弁護士や司法書士だけでなく、福祉関係者など支援者も含めて、幅広い読者を想定しているのかと思われる。
労働関係訴訟の実務
労働関係訴訟の実務
(株式会社 商事法務)
評価 98点
労働関係訴訟について、多数の裁判官が、実務ポイントを解説している。
多様な類型において、その裁判例や通達なども引用して、一般的な裁判所の考え方を紹介した後に、主張・立証のポイントの解説がある。
この本で大変面白いのが、労働者側、使用者側双方から、主張・立証すべきポイントを裁判官の目線で指摘しているところと、主張・立証の方法が一般論ではなく、具体的な証拠の提出方法などにまで言及しているところにある。
主張ポイントについては、裁判官が主張ポイントを指摘し、さらに実務で運用で円滑な裁判が進展されるよう、主張しておいて欲しい点であったり、逆にありがちな不適切な主張ポイントまで言及していたりする。
例えば、休職命令の効力を争う場面で、訴状記載に当たって、原告側に主張立証責任がない部分でも、早期に争点を明らかにすべく、休職事由の不存在について、論じてあるとよい。早期の裁判所からの求釈明にも資する。といった指摘があったり、
証拠の関連では、労働時間の証拠の提出にあたって、タイムカードであれば直接的な証拠として、全て出してほしいが、メールやFAX送信時刻、タコメータなどの場合には、見ずらくわかりにくいので、その資料の提出方法にまで言及があったりする。
また、あまりよくない主張展開として、例えば、労働者か請負業者かといった主張に当たって、通達や裁判例の引用での一般論になりがちな主張展開が散見されるが、具体的にどういったことを主張してほしいかといったことが指摘されていたりする。
この本では、裁判官がどういう主張・立証を事案類型毎に予定しているかという点が、かなり垣間見れるうえに、労働者、使用者双方からの主張・立証ポイントを指摘しているので、一般的に労働者側のみ、使用者側のみと実務では別れやすく、一方側の考え方にどうしてもいきがちなところ、相手方側から見た事案というのが、裁判所という中立な立場から俯瞰されていることによって、ニュートラルに見ることができるという作用もある。
労働の法律問題については、この書籍はまず外せないと言っても過言ではない。
第1版 2012.6発売
第2版 2018.5発売